銅スクラップの販売先と炉(精練)までの流れ Procedure-of-Copper-Scrap-Recycle
銅スクラップを集めた後は、当然それを販売しないと仕入費が回収できない。
市中で銅屑を集めている小規模な者はスクラップ屋に売り、現金を手にするが、それらの者から銅屑を買い取ったスクラップ業者は、一部を除き、自分で炉を持ち精練しているわけではなく、他へ売っている。
一つは輸出(海外への販売)。
銅スクラップの輸出先でも書いたが、中国が圧倒的。
下銅などの銅の含有が少ない銅屑や、銅を取り出すのに手間のかかる銅屑(モーター屑や雑品など)は、中国に輸出される。
どうしても人力での分別や解体が必要になるような銅屑の場合、日本国内では人件費的に合わないためだ。
2005年頃は金属価値の低い雑品を求め、中国への輸出が盛んに行われたが、現在は価格も下がって落ち着いている。
雑品の輸出が始まった当初の業者は、相当儲けただろうね…
輸出は売却費用の回収が遅く、また、円相場の影響を受けやすいという難点がある。
なお、輸出後には消費税の還付がある(返ってくる)。
これは「消費税は国内で消費されるものに課税する(外国で消費されるものには課税しない)」ためだ。
次に国内業者。
といっても、スクラップ屋が炉に直売することは少なく、スクラップ屋→スクラップ屋→…→炉という形で、間に業者が入るのが大半。
昔は直納(直接納品)するのが多かったが、これはスクラップ屋が少なかったため。
小規模でも直納にしないと、炉から見ると、納品してくれるスクラップ屋が足りないためだ。
しかし、現在のようにスクラップ屋があふれている状況では、全てを直納にすると業者が多くなりすぎ、管理できない。
また、昔のスクラップ屋とは異なり、ただ集めるだけで銅屑の質を確保しない業者が増えたので、そんなところからは仕入れられないこともある。
間に業者が入ると、当然いくらかカネを各々が取る。
例えば、以下のような流れがあったとする。
個人Aが550円で仕入れた銅屑を、業者Bが600円で買い取り、業者Cに630円で売る。
業者Cはそれを業者Dに650円で売り、業者D(直納問屋)は、それを炉に660円で売る。
上(炉)から見ると、間に入る業者が増える毎に、末端での買取価格は下がる。
上の例の場合、人件費などを除いた粗利は、
・個人A:50円
・業者B:30円
・業者C:20円
・業者D:10円
となる。
これは説明のための値であり、数値は実際のものではないが、上に行くにしたがってこの値は下がる傾向だ。
よって、上に行くにしたがって、物量を集めないと成り立たない。
直納できる業者は高値で売却できるので、スクラップ屋はその位置に付きたがる。
上の例では、業者Bは30円の粗利であるが、これが業者Dの位置(直納問屋)になると、60円(=660円-600円)の粗利を手にできる。
が、直納問屋になるのは、そう簡単なことではない。
一定の条件があるためだ。
まず、扱う銅屑品質が高い(屑の知識がある)こと。
炉は精練専門であり、解体や分別をするところではない。
そのため、炉に納める銅(炉前)は、質が高い必要がある。
次に、高値になびかないこと。
他の炉や海外筋が高値で買うからといって、そちらへ出されて困るからだ。
他へ出されると、炉に入る銅量が不安定となり、銅の生産を安定させられない。
炉は、一旦稼動させると簡単に止めることができないため、継続して稼動させる(銅の安定生産)ことが重要なのだ。
そのため、他と比べて買値が悪くても、銅を納めてもらわねばならない。
同様の理由で、相場に左右されないこと。
銅相場が悪いといって炉に納めるのを、銅場が良くなるまで待たれては、安定した銅生産は不可能となる。
炉が第一に求めるのは、安定した銅の生産だ。
これができないと、精練済の銅を買ってくれる企業(工場などの生産者)の信用を失ってしまう。
直納できる業者の条件をまとめると、
「高値になびかず、相場に左右されず、他へ売らず(=裏切らず)」
という業者となる。
さらに付け加えると、物量が多いこと。
小口を相手にするほど炉は暇ではないし、小口を相手にしてしまうと、自分(炉)に納める直納問屋の仕入先を奪うことなってしまうため、直納問屋の反発を招くからだ。
このあたりは、昔は「口約束」的な部分が多かったが、今は「契約書」として交わされる。
規定量を納められなければ、ペナルティーが課せられることも。
稀に相場からして考えられない高い買取価格で買っている業者を見るが、これは規定量を集められない直納問屋か、それらから依頼を受けた下の業者である。
容易に手に入らない、「直納問屋」の地位。
ペナルティーを受けて信用を無くすくらいなら、損してでも規定量を集める方がいいという判断だ。
カネで信用は買えないというが、(以下略)
そんな買取価格は、規定量が集まったら、当然終了。
当然、物量の不足を補うのが目的だから、物量少の業者は相手をしない。
また、その値を持って「●●がこの値で買っているから同値で買ってくれ」と来る者もいるが、こちらはそんな「ワケありキャンペーン」とは関係ないし、合わせることもしない。
業界を見ていると、こんな小さな屑屋が直納?と疑問に思うことがあるが、それはほぼ例外なく「歴史のある業者」だろう。
曽祖父、祖父、父など、数代前から炉と取引のある業者だね。
互いに信用を重視するから、炉も集荷量が少ないからといって、直納問屋を切ることは少ない。
儲けよりも信用、そして長~い、お付き合い。
いかにも「日本らしい」というか、何と言うか。
雑品輸出過熱化の頃から海外勢が参戦。
雑品の価格低下に伴い落ち着いているものの、銅屑の集荷競争は続いている。
銅屑が末端から炉に向かう流れは不変だが、その間が大きく変わり、昔ほど利益が取れなくなった。
老舗の屑屋でも、上手くやらないと食えない時代が来ている。
まぁ、これは屑業に限った話ではなく、老舗旅館や老舗料亭も同じこと。
歴史だけではメシは食えない。